「富士吉田の方って、みんな素敵なネクタイをしてますね。」
出張で来県した知人女性が風になびく髪をかき上げながら、そう言った。
その視線はネクタイと私の顔を交互に行き来している。私は高まる胸の鼓動を必死に押さえつけながら、
「ここは織物の街ですからね。」と、さも当然のように返す。
諸説あるがネクタイの起源は戦地に赴く兵士が首に巻いたことからあると言う。
それゆえか、私も「この商談は必ずものにしたい。」と意気込みながらネクタイを結ぶ手はいつもより力が入っていた経験がある。
鏡越しの顔もどこか凛々しい。
富士吉田商工会議所青年部では、年に数回の行事において全員でおそろいのネクタイを付けることがある。
ネクタイのベースは紺色で、細身の白とブルー、ライトブルーのレジメンタルストライプ柄が手の込んだ織目をアクセントにした本体の生地に、スッと落とし込まれている。雪をまとった富士山の麓の、吐く息が白い、きりっとした冬の朝のような色合い。
通常総会、新年会、去年の2016年度では30周年式典であったり、
いつもはバラバラの60を超える部員の個性は、この時だけ、キュッと一つにまとまる。この一体感が、どこか心地良い。
先を歩く彼女の背を見ながら、私は思い出したかのように、もう一度ネクタイを上まで締めなおす。
私は知っている、この瞬間の、私の顔を。
「少しお茶でも飲みませんか?この街の話がしたいんです。」